「施設に行くには、まだ若すぎるよ」
これは、私が50歳手前で介護施設への転職を決めたとき、面談で言われた言葉です。
看護師として35年のキャリア。長く病院で働いてきた私にとって、その言葉は少し引っかかるものでした。
「本当にこの選択でいいのかな…?」
「これって“キャリアダウン”なんじゃないの?」
そう思っていた時期もありました。
でも、今はハッキリ言えます。
あの時、思い切って施設に転職して本当に良かった。
今の私は、ようやく「自分に合った看護」を見つけられたと思っています。
小1の壁にぶつかり、働き方を変えた
私が介護業界に入ったのは、今から15年前。
子どもが小学生になり、いわゆる「小1の壁」に直面したときのことです。
夜勤や残業がある病棟勤務を続けるのは難しく、
昼間だけ、週4日の非常勤としてデイサービスに転職しました。
そこでは主に健康チェックやバイタル測定、リハビリの補助がメイン業務。
正直、最初は「看護師としては物足りないかな…」と感じることもありました。
病院に戻るも、現場についていけなかった
子どもが中学生になったタイミングで、もう少し収入を増やしたくて再び病院勤務に戻りました。
ところが、5年間のブランクは思った以上に大きかったんです。
- 点滴がうまく入らない
- 若い看護師たちとの距離感がつかめない
- 電子カルテの操作に戸惑う
- 日勤常勤でも時間内に仕事が終わらない
心がすり減る日々が続き、3ヶ月で退職を決めました。
特養への転職。ここで初めて「看護が楽しい」と思えた
その後、縁があって今の特別養護老人ホームに転職。
ここでようやく「この仕事、自分に合っているかもしれない」と思えたんです。
- 入居者さんの体調管理
- 服薬管理、経管栄養の対応
- 急変時の対応
- 医師やご家族との連携
- 最期の看取りケア
病院とは違い、“日々の変化をじっくり見守る看護”が求められる現場です。
一人の看護師として、大きな責任を持って判断し、対応し、支える。
そのやりがいは、想像以上でした。
施設看護=キャリアダウン?そんな価値観にモヤモヤする
今でも、受診の付き添いで病院に行くと、
なんとなく「施設の看護師=レベルが低い」と見られている空気を感じることがあります。
でも、それって本当にそうでしょうか?
病棟と施設では、求められるスキルも、判断力も違います。
時間がゆっくり流れているように見えるかもしれませんが、
実は「一人で判断しなければならない場面」が多く、プレッシャーは相当です。
施設看護師を「ラクそう」と思っている方には、
ぜひ一度、現場をのぞいてみてほしいとさえ思います。
看護の仕事に、優劣なんてない
施設での看護は、ある意味で“人生の終盤”を支える仕事です。
「どこまで医療を行うのか?」
「延命治療は希望するのか?」
「穏やかな最期とは何か?」
ご本人の思い、ご家族の思いをすり合わせながら、
その人らしい最期をサポートする――それが私たちの仕事です。
場所がどこであれ、ナースであることに変わりはありません。
最後に
かつての私のように、「施設勤務=キャリアダウン」と感じている方へ。
あなたの看護は、病棟だけでは終わりません。
働く場所を変えても、看護師としての価値は決して下がりません。
目の前にいる利用者さんを、最期まで安心して過ごせるように支える。
それができる今の私の仕事は、誇りです。